次世代インターネット技術を使った救急活動支援画像配信システム第4回公開実証実験のお知らせ─ノートパソコンだけでリアルタイムに救急隊員とのコミュニケーションを可能にする Mobile ER (モバイル救急救命室) ─

2009/09/25

【要旨】
奈良先端科学技術大学院大学と生駒市消防本部は、救急活動を支援するために現場の動画像などがやりとり できる画像配信システムの共同研究開発を世界に先駆け2003年から進めてきました。今回は、病院にいる医師が手持ちのパソコンだけを使い、救急現場から 送られる傷病者画像や心電図など重要な医療情報をリアルタイムに確認できるシステムを開発、公開実験します。
共同研究グループは2005年10 月、2006年11月、2008年2月にプロトタイプシステム(Mobile ER - モバイル救急救命室)の公開実証実験を行い、次世代インターネット技術を用いた救急車通信システムとして世界初の試みの様子を披露しました。我々はワイヤ レスブロードバンド時代をにらみ、この共同研究においてさらに開発を進め、より進んだ救急活動支援画像配信システムを完成させました。
今回のシス テムでは、救急車が現地に到着し傷病者への対応を開始すると同時に複数の病院側へ通知がなされ、受け入れ側病院がそれを取ることでコミュニケーションを開 始できるようになります。今回のシステムでも、病院にいる医師側には特別な装置を必要とせず通常のPCのみで動画像や音声の双方向コミュニケーション及び 心電図等の各種医療情報機器の情報伝送が可能になります。これにより、医師は傷病者の状況を的確に判断することができ、医師からの指示もリアルタイムに救 急隊員へ伝達することができます。
実証実験レベルでの研究開発は今年度より実際の現場への導入準備へと段階を進めており、今回の実証実験もその一貫として行われます。そこでこのMobile ERの現状を広く知っていただくため、今年も公開実証実験を下記の通り行います。

【公開実証実験】
日 時: 平成21年10月3日(土) 10:00から
場 所: 生駒市消防本部
   奈良県生駒市山崎町4-10
http://www119.city.ikoma.lg.jp/

【公開実証実験の内容】救急車の救急隊員と消防本部との間で動画像や音声によるコミュニケーション支援の様子及び心電図等の各種医療情報機器からの情報配信の様子を公開。

【本件に関するお問い合わせ先】
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 
TEL:0743-72-5148  (担当:教授 砂原 秀樹)
FAX:0743-72-5149
E-Mail: [email protected]

【概要】
開 発したシステムは救急隊員が装着するウェアラブルコンピュータシステムと救急車を核にした次世代インターネット通信システムから構成されます。次世代イン ターネット技術を用いることにより、隊員が装着するウェアラブルコンピュータシステム、車内に設置されるGPSセンサや車載サーバ、各種医療機器と消防指 令本部や救急救命センターとのやりとりを円滑に行うことが可能となります。また、これらのシステムが扱う情報はセキュリティやプライバシに注意を要するも のであることから、次世代インターネットIPv6を用いることで、安全で確実な通信を行えるよう配慮しています。
ウェアラブルコンピュータシステ ムは、装着型のカメラ及びコンピュータを使うので隊員の作業を邪魔することなく患者の様子を撮影することが可能になります。特に、救急車が現地に到着し傷 病者への対応を開始すると同時に複数の病院側へ通知がなされ、受け入れ側病院がそれを取ることでコミュニケーションを開始できるようになります。これによ り、受け入れ先病院の選定を効果的に行うことが可能となり、救急搬送の時間の短縮につながることが期待されます。これらの動画像及び音声はインターネット を通じて受け入れ先の救急救命センターの医師へ伝達されます。また、医師からの指示も動画像と音声で救急隊員に伝えることが可能です。これにより、救急活 動のより一層の質の向上が期待されます。


【 開発されたシステムの特徴 】
●車載用次世代インターネットシステム
 救急車から自動的に同時に複数の病院側へ通知を行い、受け入れ側病院とのコミュニケーションが円滑に開始できる機能
 次世代インターネット技術(IPv6 - RFC2460, Mobile IPv6 - RFC3775, Network Mobility - RFC3963)を用いた救急車接続システム
 無線LAN/EV-DO(3G携帯電話)/PHS等のさまざまな通信技術を用いて救急車内のネットワークをインターネットに接続
 隊員用のウェアラブルコンピュータシステムを無線LANで接続
 GPSセンサや各種医療機器など車内の機器の情報をインターネットを通じて本部サーバへ送出可能(SNMP - RFC1175)
 心電図等の各種医療情報機器からの情報のセキュリティ対策を施したリアルタイム伝送(Secure RTP - RFC3711)
 動画像と音声による救急隊員・情報本部・医師間のコミュニケーション支援
 次世代インターネット技術(IPsec)等を用いてセキュリティ対策を施した通信を実現
 標準の技術を用いることによるコスト削減
 医師側では、通常のPCのみで対応可能であり、普及展開の促進が容易
●救急隊員用ウェアラブルコンピュータシステム
 装着型カメラ/コンピュータを用いることで隊員の作業を邪魔することなく患者の様子を撮影することが可能

研究開発を担当する本学担当者は以下のとおり
・情報科学研究科 インターネット・アーキテクチャ講座        教授 砂原 秀樹
・   〃    情報コミュニケーション講座・附属図書館研究開発室 助教 寺田 直美
・   〃    視覚情報メディア講座                助教 神原 誠之

実証実験参加病院
・ 奈良県立奈良病院
・ 奈良県立三室病院
・ 奈良県立五條病院
・ 近畿大学医学部奈良病院

なお、本システムの開発にあたっては、以下の組織と連携・協力をいただいています。
ウェルチ・アレン・ジャパン株式会社、
株式会社エジックス、
デジタルリサーチ株式会社、
(株)インターネットオートモビリティ研究所、
WIDE Project、
インターネットITS協議会          (順不同)

【補 足】
IPv6
IPv6 はInternet Protocol Version 6 の略である。インターネットプロトコルとは、インターネットの基盤として共通的に使われている通信手順(プロトコル)の名前。現在一般に使われているもの は、バージョン4 であるが、これの次のバージョンがIP バージョン6 である。IPv6では、大規模なアドレス空間(およそ10 の38 乗)を提供するだけでなく、パケットそのものを暗号化してセキュリティを強化する、移動するノードやネットワークとの通信支援機能を有するなどの特徴を持 ち今後のインターネットを支える中核の技術となる。

Mobile IPv6/Netwrok Mobility(NEMO)
IPv6の拡張として移動するノード/移動するネットワークを支援するために開発されたプロトコル。これを用いることにより移動する自動車に設置されたノードと継続した通信を実現できる。

Secure RTP
動画や音声、心電図等のデータ等リアルタイム性の高いデータの通信を行うために開発されたプロトコルにセキュリティ機能機能を追加したもの。心電図等プライバシの保護を必要とする情報を安全にかつリアルタイムに伝達することができるようになる。

IPsec
インターネット上を流れる情報を暗号化することで、通信される情報を保護するとともに、発信者・受信者を確認する技術。これにより、正しい発信者からの情報のみを受け取り、正しい受信者のみへ情報を伝えることができるようになる。

PDFファイル(216.86 KB)

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