2015/12/22
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:小笠原直毅、奈良県生駒市)物質創成科学研究科情報機能素子科学研究室の石河泰明准教授、藤井茉美助教らは、一般財団法人電力中央研究所(理事長:各務正博、本部:東京都千代田区)の小野新平主任研究員らと共同で、注目の酸化物半導体「IGZO」(※1)を用いた薄膜トランジスタ(※2)(図1)の極低電圧駆動と高信頼性を同時に大幅に改善して達成した。これまでの素子の40%以下という低い駆動電圧で稼働、劣化量は1/2以下と信頼性も高い。イオン液体(※3)という常温大気中で液体を保つ塩を用いたことにより実現したもので、軽くて薄く持ち運びしやすいモニター画面のフレキシブル化にもつながる技術である。
透明かつフレキシブルな次世代ディスプレイの形態を目指す中では、駆動に用いられる薄膜トランジスタの活性層材料として酸化物半導体IGZOに注目が集まっている。その広い実用展開に向けて残された課題は、環境負荷や電界に対する信頼性とフレキシブル化を実現するための低温プロセスの導入であり、さらに駆動電圧を下げることで消費電力を削減することである。このたび、これら3つの課題を同時に解決するため、室温で液体状態であるイオン液体と、室温でも形成できるIGZOの界面を用いて電気二重層を形成し、通常より多くの電子が利用できる状態で薄膜トランジスタ(図2)を動作させた。この素子は、一般的に高い信頼性を示す酸化シリコン絶縁膜を用いた素子の性能を大きく超え、駆動電圧が40%以下、劣化量が1/2以下という高い性能を達成した。この技術を用いることで、透明かつフレキシブルなディスプレイを長期間安定して動作させることが可能になる。
この成果は、英国時間の平成27年12月18日(金)午前10時、英国科学誌Scientific Reportsに掲載された(日本時間平成27年12月18日(金)午後7時)。
【掲載論文】
論文タイトル:High-density carrier-accumulated and electrically stable oxide thin-film transistors from ion-gel gate dielectric
著者:Mami Fujii, Yasuaki Ishikawa, Kazumoto Miwa, Hiromi Okada, Yukiharu Uraoka, and Shimpei Ono
論文掲載誌:Scientific Reports 5, Article number: 18168 (2015)
DOI: http://dx.doi.org/10.1038/srep18168
naistar:http://hdl.handle.net/10061/10464
(NAIST Academic Repository:naistar)
【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科情報機能素子科学研究室 准教授 石河泰明
TEL:0743-72-6061、FAX:0743-72-6069、E-mail:[email protected]
【用語説明】
※1 IGZO:東京工業大学の細野教授グループが開発した透明な酸化物半導体。In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)により構成されており、数十cm2/Vs程度の比較的高い電界効果移動度が実現できる材料として注目されている。
※2 薄膜トランジスタ:薄膜シリコンなど半導体膜で構成された薄型のトランジスタのことである。液晶パネルの画素駆動素子として主に使用されている。薄膜トランジスタを使った液晶ディスプレイの表示方式としてアクティブマトリクス方式がよく知られている。
※3 イオン液体:イオンだけからなる液体である。通常の塩でも加熱して溶融させれば、液状になる。イオン液体が通常の無機塩と異なる点は、融点が非常に低く、蒸気圧が極めて低いことである。この常温で液体の塩が様々な分野で利用される可能性が拓けてきている。