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物質創成科学領域
薄膜半導体素子科学研究室
准教授
原 康祐 Hara Kosuke
自動車を走らせる高発電効率の薄膜太陽電池を実現する
シリコン結晶の限界を超える
太陽光発電は、2023年度に電源構成の9.8%を占め、再生可能エネルギーのトップに立ち、今後さらに普及することが予想されます。しかし、同じ省エネと脱炭素化技術でありながら、自動車用の太陽電池は、ガソリンエンジンとモーターを併用するプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)の一部に搭載され、給電を始めた段階です。自動車1台当たりの太陽電池のコストが高く、発電効率が低いことなどが本格的な実用化のネックになっているのです。
そこで原准教授は、地球上に豊富にある元素の化合物で、光吸収能に優れた「バリウム・シリサイド(BaSi2)」半導体に新たな半導体材料を組み合わせることにより、発電効率が最高レベルで、曲面が多い車体への統合に適した薄膜太陽電池の設計に成功しました。「理論値では、一般的に使われているシリコン結晶の限界発電効率(29~30%)を上回る31%の効率です。最適の材料を選択するとともに、薄膜の製造法を最適化するなどして高効率薄膜太陽電池を実現したい」と話します。
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新たな材料を選択
太陽光発電の仕組みは、まず、光のエネルギーを吸収した物質に光電効果という現象が生じ、マイナス(負)の電荷を帯びた電子とプラス(正)の電荷を帯びた正孔が飛び出します。次いで、連結した「n型半導体」に電子が、「p型半導体」に正孔が集まり、負極と正極に分極しますが、そのあと、電子が正極に移動する形で電気が流れます。
原准教授は、発電効率を上げるため、「BaSi2」半導体を光吸収材とし、それをはさむ形で、異なる材料のn型、p型半導体を積層する「ダブルヘテロ接合」という積層構造を導入しました。これで「BaSi2」がn型、p型それぞれと直接に界面を作ることになり、電子や正孔が移動しやすくなります。
さらに、n型、p型の材料について、材料のデータベースから材料の反応性、安定性など3段階で選択し、もっともふさわしい材料がn型は酸化サマリウム(Sm2O3)、p型は硫化バリウム(BaS)であることを突き止めました。
また、原准教授は、BaSi2の薄膜半導体を大面積で作れる「近接蒸着法」の開発にも成功しています。
原准教授は「この太陽電池材料の化合物はすべて研究室内で合成できます。今後は基板材料や薄膜作製条件などを検討し、デバイス化することを目標にしています」と抱負を語ります。
社会に役立つ成果を残す
原准教授は、エネルギーに興味があったことから、京都大学工学部に入学し、材料科学の研究を続けていましたが、博士研究員の時に、半導体の材料として注目され始めたBaSi2の研究プロジェクトに参加したことをきっかけに、太陽電池などの研究に取り組みました。
研究を続けるなかで、印象に残るのは大面積の薄膜を生成する「近接蒸着法」の開発に成功したときのこと。原料を昇華させて近接した基板に堆積させる「近接昇華法」は、大面積に効率良く成膜できる手法ですが、BaSi2は昇華しづらいためほとんど膜が形成しません。そこで原料を工夫して試みた「近接蒸着法」の実験の結果、灰色のシリコン基板の上にBaSi2の黒灰色の薄膜が広がっているのを目の当たりにして「ついにできた」と感慨深かったそうです。
「研究が成功か失敗か、いずれであっても他の研究テーマや社会に役立つ成果は残す」が信条。前職の山梨大学准教授時代は、自転車で果樹園など田園地帯をめぐるのが趣味だったが、「奈良では、薬師寺など寺社仏閣を訪ねたい」と語っています。