
持続可能な社会の共創を目指す
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに「大阪・関西万博2025」が4月に大阪・夢洲で開幕しました。関連イベントの「けいはんな万博2025」も関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)で同時開催されています。いずれにも奈良先端科学技術大学院大学から、研究成果を出展する予定です。そこで、けいはんな万博2025運営協議会座長を務める塩﨑一裕学長に、出展参加の意義や開催までの取り組み、ポスト万博シティへの期待などについて聞きました。
――奈良先端大は大阪・関西万博に参加し、出展しますが、どのような意義がありますか。
塩﨑学長 大阪・関西万博のテーマは、一人ひとりが、自分の生きがいやポテンシャル(可能性)を発揮できるような社会を作りだすということです。それは、地球規模の課題である「持続可能な社会」の実現にかかっています。この万博開催の機会を生かして、世界中からさまざまな人が集まり、素晴らしい持続可能な社会を共創することが、課題解決に向けての一つの重要な取り組みになります。
奈良先端大も共創(Co-creation)を目指して多様な研究者や学生が集まる場であり、各人の知識、視点、経験などを活かして新しい社会の創成を目指すなかで、特に重要なミッションが、「持続可能な社会」です。
このように、万博が目指す未来社会の課題が本学のそれと重なり、しかも本学の近くで開催される万博であることからも、出展の場を積極的に活用していきたいと思います。
――具体的には、どのような内容の出展ですか。
塩﨑学長 本学からは、大阪・関西万博、けいはんな万博併せて7件の出展を行います。例を挙げると、話題のAIによるロボットシステムの自動操縦については、松原崇充教授(ロボットラーニング研究室)が研削ロボットやごみを搬送するクレーンロボットなど、最新技術の社会実装に向けた実例のデモンストレーションを行います。松原教授は、化学プラントのAI自動操縦技術で日本産業技術大賞の総理大臣賞を受賞されており、研究成果の幅広い実用化の可能性が注目されています。
また、出村拓教授(植物代謝制御研究室)の「光る植物」は、キノコ由来の発光遺伝子を植物に導入し、自発光させる研究です。将来的には街路樹を光らせて街灯の消費電力を大幅に削減し、脱炭素や持続可能な社会の実現につなげます。このような究極の夢に向かって研究者が日々取り組んでいることを子供たちに知ってもらい、次世代の優れた研究者を目指すきっかけにしてほしいと思います。
さらに、清川清教授(サイバネティクス・リアリティ工学研究室)は、最新のVR技術を使い、実在の扉を開いてバーチャル空間に自然と踏み出していくような体験や、ゴーグルを装着して食事をすると、実際に食べているものとは別のものを食べているかのように感じられる技術を紹介します。後者は、特定の食品しか摂取できない患者に、バーチャル食を提供できないかという発想から生まれた研究で、未来のヘルスケアのあり方を探る研究の成果です。
博士後期課程学生の秋吉拓斗さん(インタラクティブメディア設計学研究室)のロボット動物園では、鳥類のキーウイやペンギンを模したロボットに子供たちが触れたり、産卵の様子を見たりして「生命」の大切さを実感します。
一方、髙木博史特任教授(発酵科学研究室)は、食肉の栄養成分などを豊富に含む酵母を使って代替プロテインを創る研究の成果を「けいはんな万博」で披露します。将来の食肉不足の課題解決を目指す取り組みです。
「未来の実験場」である大阪・関西万博に来場する世界中の人たちに、本学の研究成果を分かりやすい形で展示することで、新たな研究のネットワークが生まれることを期待しています。そこから、学外との共同研究につながったり、社会実装へのきっかけが生まれたりすればベストの展開です。同時に奈良先端大のプレゼンス(存在感)を高める機会になればと思います。

――「けいはんな万博2025」は、けいはんな学研都市内の研究機関や企業などが連携して「健康」「平和」「豊かさ」に満ちた未来社会の実現を目指して開催されます。「ロボット・アバター・ICT(情報通信技術)」「ウェルビーイング(幸福)」など4つのテーマに分けて、シンポジウムや展示のほか、未来の科学や文化を体感できる多彩なイベントが学研都市内で繰り広げられますが、けいはんな万博の運営協議会の座長である塩﨑学長は、どのように取り組んできましたか。
塩﨑学長 けいはんな学研都市は、奈良先端大など大学、研究機関や、企業の研究施設が研究開発を行い、さらに住民の方々が参加して実証実験などが行われることもあります。このように多くの研究の場が共存しながら、地域の一体感も育まれている、筑波研究学園都市と並び称されるサイエンスシティです。また、この地域は歴史や文化的な資産、豊かな自然環境に恵まれ、科学研究にも良い影響を与えているという特色もあります。
この地域にさまざまな分野の国内外の人々が集まり、半年にわたって科学をはじめ芸術、文化のイベントが相次いで催されます。多様な人々が参加して盛り上がるお祭りのようなイベントをどのように形作るか。けいはんならしさの見せどころであり、また、域内の各機関や企業などが力を結集した点でもありました。
奈良先端大は、学部を持たない大学院のみの大学なので、多様な学生が国内外から入学し、外国人研究者も多いことから、多様性に富み、共創の精神が浸透しています。それが本学の強みでもあり、けいはんな万博のイベントでも活かせるところだと思います。
――どのようなイベントが開催されますか。
塩﨑学長 イベント開催のアイデアや申し出が非常に多くありましたが、予算の関係もあって、特に特徴あるものに絞りこんで開催することになりました。まず学研都市は情報科学関係の研究開発が盛んであり、スタートアップも推進していることから「ロボット・アバター・ICT」と「スタートアップ」をテーマとしたもの。加えて、大阪・関西万博に呼応するテーマとして、食・健康・環境について考える「ウェルビーイング」や、科学と文化の融合で新たな価値を創造する「サイエンス&アート」をテーマとしたイベントです。
このような多彩なイベントを大阪・関西万博にも一部出展し、また、夢洲に来場した海外の人たちにけいはんな万博を見学してもらう計画も立てています。けいはんな学研都市は、大阪万博会場最寄りの地下鉄夢洲駅から電車で約1時間の比較的近い距離にあるので立ち寄りやすく、人の流れが作りやすい。けいはんなにある各研究機関の成果やスタートアップの活気などを目の当たりにして、サイエンスシティとして未来社会に貢献する可能性を体感してもらうことで、けいはんなの知名度を世界的に高めていきたいと思っています。

――けいはんな学研都市は、大阪・関西万博で披露される先端技術の実用化の拠点としての「ポスト万博シティ」に指定されましたが、どのような形で地域の発展に結びつくのでしょうか。
塩﨑学長 万博の成果をけいはんな学研都市で発展させていく絶好の機会を得たと思います。「持続可能な社会の創出」という大阪・関西万博のコンセプトは、けいはんな学研都市の目標と一致しています。フェスティバルである万博に集まった新しい技術のシーズや人のネットワークを生かし、ポスト万博シティで実際に社会実装、社会課題の解決につなげていく。「実証(実証試験段階)」から「実装(社会実装)」への流れをつくることで、次世代の社会に貢献していくことがポスト万博シティのミッションだと思います。
――けいはんな学研都市に位置する奈良先端大としても、地域を盛り立てるプランを考えていますか。
塩﨑学長 本学は1月に文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択されました。目指すべき10年後の大学像を提案して審査されるもので、5倍という高い競争率でした。本学は、日本の生産年齢人口が減少していく中で、研究力や開発力を維持、向上するための取り組みとして「実験、研究をAIやロボットを使い省力化する」「東南アジアなどから優れた留学生をリクルートし、高度人材を育成する」ことを提案し、高い評価を受けました。将来の重要な社会課題の解決に貢献する研究大学として、次世代の科学研究に関わる提案や研究成果を地域と世界を結ぶネットワークの強化により、積極的に発信していきたいと思います。
本学からの万博出展技術の紹介は、TOPICSでも紹介しています。
- VR(仮想現実)で生駒山のPRを行うインタラクティブメディア設計学研究室・澤邊太志准教授
- AIとロボティクスの融合が生み出す新たな可能性を研究するロボットラーニング研究室・松原崇充教授・佐々木光助教
- VR技術を使用した技術展示を行うサイバネティクス・リアリティ工学研究室・清川清教授
- 電力を必要としない「光る植物」を研究する植物代謝制御研究室・出村拓教授、大阪大学産業科学研究所・永井健治教授(本学客員教授)
- 課外活動団体NASC(NAIST Science Communicators)が、「けいはんなアバターチャレンジ2025」に出場
- 酵母の研究を通して有用物質の生産や発酵・醸造食品の開発を目指す発酵科学研究室・髙木博史特任教授
- 「ROBOZOO~心を育むロボット動物園~」を出展するインタラクティブメディア設計学研究室・博士後期課程3年 秋吉拓斗さん